大家がいなくなった202号室。オレは荷物を持って玄関に立ち尽くしたまま。
彼女はオレをじっと見つめたまま。
・・・オレの顔になんかついてますか?





この街で君と暮らしたい 03





「・・・あのさ、名前、教えてくんねーかな。オレはレオリオ」
まずは、名前。コレを知らなきゃ何も始まらない。なんとなく気まずくて、とりあえず控えめな口調にした。
「・・・クラピカ」
少しだけ視線を泳がせて。”クラピカ”は小さく呟く。・・・第一関門クリア。

――それにしてもだ。
「ここ・・・二人で住むの、狭くないか?」
六畳一間、トイレ付き風呂付き。
玄関の隣に小さなキッチンがあって、ワンルームといえば聞こえはいい。
立てつけの悪そうなガラス戸の向こうには、狭そうなベランダがあった。
部屋の中央に、小さなテーブル。あとは・・・本棚。たたまれた布団。コレだけ。

「・・・あれ?なんでおまえ、こんなに荷物少ねーの?」
だっておかしい。遊び盛りの女子高生が、こんな、一人暮らしのお年寄りみたいな部屋に住むわけないって
普通なら考えるだろ。

「これだけあれば、なんの不自由もなく生活できるのだよ」
しれっと言うクラピカは、女子高生特有の、なんつーかこう、きゃぴきゃぴ(死語)したかわいさのかけらもなかった。
そもそも、なんでクラピカはこんなアパートで、(多分)一人暮らしなんだ?収入はどうしてんだ?
考えればキリがない。謎は深まるばかり。でも、そんなことを今すぐ聞くのは、気が引けた。 俺だって初対面のヤツに根掘り葉掘り聞かれたくねーもんなァ。

いつまでも玄関に立っているわけにもいかないから、とりあえずテーブルの横にどっかり腰を下ろした。

”あのとき”のことが気まずいのか、クラピカはオレに背を向けて、本を読み始めた。
正直、オレもアレには腹が立った。理不尽すぎないか、と。
でもよくよく考えてみれば、思春期の女の子にとっては、ごくごく自然なこと。きっと、悪気はないのだろう。
なんて、親父臭いことを思ってみたり・・・・・。

「あー、ちょっとさ、手伝ってくんねーかな」
こういう雰囲気はあまり好きじゃない。そのうえクラピカとは今日から同居人になるわけだ。
オレは手を止めて、クラピカに声をかける。ページをめくる手が止まり、大きな瞳がこちらを振り向いた。

サラサラと音を立てる金髪に、わけもなくドキッとした。・・・だめだ、溜まってんなオレ。

「・・・ずいぶんな荷物だな」
・・・お。初めて話しかけてくれた。
「こう見えても大学生だからさ、どうしても辞書とかたくさん必要なんだよなー」

朝のゴミ当番とか
夕食係とか
きっと、そのうちそんなことも決めるのだろうと思ったら
なんだか楽しくなってきた。




つづく