いやいや、まてよ。
そもそもなんでオレとクラピカは一緒に住んでんだ。
ありえねぇじゃねぇか、今までのことを考えると。
・・・現実的に。漫画じゃねぇんだから。
一週間たって、ようやく気が付いた。遅ぇよ。
この街で君と暮らしたい 06
朝起きたら、相変わらずのバリケードの向こう側には、クラピカの姿はなかった。
図書館に行くと言う。そんなメモがテーブルの上にあった。
癖のない綺麗な字。性格がそのままあらわれているようで、少し可笑しかった。
いい機会だ。この一週間、ずっと疑問だった。クラピカのことも。ここの何もかも。あの大家のおやじに、全て聞き出そう。
オレは事情も何も知らない。何も知らないでここにのうのうと住んでいるなんて、オレは納得いかない。
この性格は直そうったって直らない。――直そうとも思わねぇ。1階の大家の部屋へ直行した。
「・・・ん?何が変だって?クラピカと一緒に住むだけで何で家賃半分かって?
あぁ、そんなにいっぺんに言わないでよ。うん、そういえば言ってなかったねぇ」
案外・・・と言うか、簡単に、大家のおやじは全部話してくれた。
「まぁまぁ、そんなとこ突っ立ってないでこっち来て。ゆっくりしなさいよ」
のんきにお茶まで出して。オレの勢いはどこへやら。
「そうだねぇ・・・あの子ちょっと変わってるでしょ。あの性格でしょ?君も一週間も一緒にいれば分かるでしょ」
「・・・あー、まあ」
確かにクラピカはどこか他人を寄せ付けない雰囲気と言うか、オーラというか、そういうものがある。
警戒心が強いのか、はたまた気が強いのか。トモダチいんのかねぇ。
「あと何年かすれば社会人だってのに、このままじゃいけないと思ってね。丁度私がこのアパート持ってたから、同居人を探してたんだよ。
そこにまんまと引っかかったのが、キミ」
えさにかかった魚みたいな言い方だなオイ。
「でも、アイツ・・・クラピカ、オレには普通に話してくれるみたいだけど」
少なくとも一週間たって、オレはそう感じていた。オレの適応力が高いだけか?
「それだけ君の存在が大きいんじゃないのかな?」
お茶をすする手を止めて、大家のおやじはオレを見て、にっこりと笑った。
その時頭によぎったのが、あのときの・・・熱を出したときの、クラピカの「ありがとう」と笑った顔。
「・・・何も誰でもよかったわけじゃないさ。
事実、最初は”出て行く”なんていってたけど、今では嬉しそうに君のところに帰ってくるしね。
それに・・・あの子は兄さんが残した大事な一人娘だからね」
その言葉に
全て分かった気がした。
「5年前かな?あの子の家に強盗が入ってね。助かったのは、出かけていたあの子だけ。可哀想なもんだろう?
親戚中たらい回しにされていたところを、私が引き取ったんだよ。叔父といっても一回も会ったことがなかったけど、迷わず引き取ったよ。
今では娘みたいなもんさ。まぁ、あの子はどう思っているのは分からないけどね」
そう言って、寂しそうに笑った。
「なんで・・・オレ、なんだ?」
さっき、誰でもよかったわけじゃないと確かに言った。
じゃあなんでオレなんだ?自分で言うのもなんだが紳士とはほど遠いぞ。それにオレは、この大家と面識なんか一度もない。
「強いて言えば・・・君の目かな」
「え?」
「目だよ、目」
「・・・目、・・・っすか」
「やさしそうな目してるじゃない」
いや、目って言われても。と思ったが、不思議と説得力があった。
もういいじゃねぇか。どうだって。クラピカが誰だって構わない。
俺だって自分の生活がかかってる。
・・・っていう建前をつくっておかないと、この気持ちを認めることになる。
初めてなんだ。どこにいても、早く帰りたいと思ってしまうのは。なんだかんだ、心配してしまう。
もしかしたら
アイツのこと、好きなのかもって思うのも。
つづく