「レオリオ!ちょっと話そうぜ」
この街で君と暮らしたい 07
大学の食堂。なかなか洒落てて、オレは結構気に入ってる。
「で、おまえの同居人てどんなヤツ?」
そんな場所でこんな会話。友人のトウスは興味津々といった面持ちで身を乗り出している。
「んー・・・16歳の女子高生」
コーヒーをすすりながら、重要な意味を持たせないようにさらっと言った。
「ふーん、女子高生・・・・・。・・・・・・・はぁ!?」
そりゃあまぁ、驚くよな。
「だ、だ、だっておま・・っ・・・それって犯罪・・・」
「人聞き悪ぃなぁ。そんなんじゃねーって」
「だってよ、なんで女なんだよ?普通そういうのって男だろ?」
「・・・まぁそうだろうな」
「にしても16歳ねぇ・・・」
コイツ、もう落ち着きやがった。トウスの目線。・・・嫌な予感。
「・・・で、もうヤった?」
やっぱり。
「馬鹿野郎。なんでヤローってのはこういう話に持ってきたがるんだろうなー」
「で、どうなんだよ?」
「・・・・確かに襲いたいほどカワイイんだけどさー・・・ガード固いんだわ」
そういう問題じゃない。自分でも分かってる。でも出てくるのは本音と建前。両方。
「何言ってんだよ。それをオトしてこそおまえだろー?」
「あのな・・・人をケダモノみたく言うな」
「だーってさ、最近欲求不満そうなツラしてたから心配してたんだぜ?」
「そりゃどうも」
ホントにそんな顔してたのかよ、オレ。コーヒーを飲み干して、午後の授業に向かった。
「ただいまー」
いつものとおり、階段を上って、すぐ見えてくる202号室。
ドアを開けると、部屋いっぱいに広がる香ばしい匂い。
「おかえり」
「・・・もしかして、料理してんの?」
制服姿にエプロンで、クラピカはキッチンに立っていた。それだけでめちゃくちゃ家庭的に見えるから不思議だ。
それにしても、クラピカが料理してるのを見るのは初めてだった。なぜか自然な成り行きで、料理は俺の担当になっていた。
「で、なに作ってんの?」
「・・・シチュー」
玄関の隣はすぐキッチン。靴を脱ぎながら鍋の中をのぞく。
「・・・・・クラピカ」
「・・・な、なんだ?」
「これ・・・シチュー?」
「・・・の、つもり・・・」
「作り方は?」
「箱の裏の通りに作ったぞ」
「もしかして初めて?」
「そうだが?」
いやいや、そこドヤ顔いらないから。
「なんだよこの色」
「私も不思議に思っていた」
「・・・、オレも手伝うよ」
「・・・よろしく頼む」
正直、こんな夕食は・・・ちょっとキツイ。
「・・・・レオリオ」
「ん?」
「・・・すまない」
何を言うかと思えば、うつむいて、ぽつりと一言。まさかクラピカの口から謝罪の言葉が出てくるとは思わなかったから、少し動揺する。
「や、しょーがねーじゃん、最初はこんなもんだろ」
「そうじゃない!」
いつもよりワントーン高くなった声色。しかしすぐに自分を戒めるように、クラピカは下を向いてしまった。
「・・・その、殴って、すまなかった」
「・・・オレ、殴られたっけ?」
「・・・電車の中で」
あぁ
あれは痛かった・・・。
「今更だけど・・・すまない」
隣の小さな体がもっと小さく見える。
「本当は・・・とても嬉しかったのだよ。助けてくれて・・・」
おいおいどうした、かわいいぞこいつ。ぐつぐつ煮えたぎっている鍋の中なんて気にならなかった。またコンビニ弁当だっていい。
オレは調子に乗った。
「しょーがねーな、ほっぺにちゅーしてくれたら許してやるよ」
「・・・!」
ほんの冗談のつもりだった。しかし相手はクラピカだ。鈍感なんだかクソ真面目なのか分からないこの性格。
「なんて、冗談・・・」
ちゅ。
身長差を埋めるように腕を引っ張られて、頬に感じたのは柔らかい感触。
「・・・これでいいか」
目に映ったのは真っ赤に染まった今にも泣きそうな顔。
いいもなにもねぇよ。冗談通じろよ。バカ野郎。
おまえのこと好きになっちまうじゃねぇかよ・・・・。
つづく