とうとうオレもやばいかもしれない。
この街で君と暮らしたい 08
断っておくが、これは夢だ。今の段階で現実になったら俺が捕まる。
――真っ白な綺麗な肌。抱き合うたびにその肌が徐々に汗ばんでいく。
触れるたびに漏れる小さな声。まっすぐにオレを見つめる切ない表情。なにもかも全部、奪いたくなった。
つまり、オレがクラピカを
抱く夢。
目が覚めて慌てて起きると、下半身の明らかな違和感。ずいぶんと立派に勃っていた。や、朝勃ちは男の生理現象だけども、内容に少々問題がある。
バリケードの隙間から垣間見るのは、安心しきった顔ですやすやと寝息をたてるクラピカの可愛い寝顔。
あーもう、だめだって恋人でもない男の隣でそんな顔して寝たら。
それと同時にトウスの言葉を思い出す。欲求不満か。まさかここまでとは自分でも驚きだ。
やっぱり無理だった。――オレには。
「何・・・してるんだ?レオリオ・・・」
「見れば分かるだろ。荷造り」
努めて冷静に、本棚に向かったまま手を止めずに、いつもどおりの口調で答えた。
後ろを振り向くことができなかった。
怒っているのか
泣きそうなのか
無表情なのか
この目で確認するのが怖かった。
「・・・やっぱさ、無理だったんだよ。見ず知らずの男と女が同居なんて・・・・・」
ゴミみたいな言い訳。嫌気がさした。
「見ず知らずではない。おまえは私を助けてくれた」
その言葉に少なからず驚いた。コイツ純粋だな、と。
「・・・偶然だろ?」
「ちがう!・・・必然だ」
声を荒げるクラピカに、思わず後ろを振り向いた。
「・・・私が悪いのか?私は・・・何かおまえを怒らせるようなことを、したか・・・?」
切なそうに細められた瞳に捕らえられて、逃げられなかった。
それくらい強い眼差し。初めて会ったときも、その瞳は印象的だった。
「おまえはなにもしてねぇよ。オレが自分勝手なだけだ」
無理矢理に荷物を詰め込んだバッグを手に提げて、玄関へ向かった。
「・・・!」
後ろから袖を引っ張る弱い力。振り向かなかった。振りほどこうともしなかった。
出来なかった。
「・・・おまえのためにやってんだぞ。おまえ、男のこと知らなすぎなんだよ。・・・オレにいつ襲われるかわかんねぇぞ」
クラピカはなにも言わない。
「男なんて、そんなもんなんだよ」
ろくなもんじゃない。これじゃオレはあの痴漢のオヤジと一緒じゃねーか。
「・・・行くな」
消え入りそうな震えた声が胸に痛む。
「やだ・・・行くな。・・・もう一人は・・・いやだ・・」
「今では嬉しそうに君のところに帰ってくるしね」
「・・・・・好きだ、レオリオ・・・」
「それだけ君の存在が大きいんじゃないのかな?」
大家の言葉と、クラピカの顔が声が重なってチラつく。
”人恋しいからとか・・・そんな中途半端なこと言ってたら、後悔すんのは、おまえだぞ”
そう言おうとした。だって事実だ。なのにオレはバッグを落として、クラピカを抱きしめていた。
柔らかい肩。甘い香り。あたたかい体。今朝見た夢よりもずっとリアルで、泣きそうになった。
一週間や二週間なんて短いかもしれない。けど、じゃあ、この気持ちはなんなんだ。今コイツを手放したら、一生後悔する気がする。
「・・・先に言うなよ」
クラピカは俺の腕の中で、硬直したまま、それでも顔を上げた。
「俺も好きだよ。バカ」
クラピカのやわらかい金髪をくしゃくしゃに撫でまわす。
それはオレの精いっぱいの照れ隠しだった。
つづく