山田の恋愛 02


今日は図書委員会の会議の日。
委員会ってのは1年も2年も3年もあまり関係ないのが特徴っす。
すでに全員そろっていて、思い思いの席に座っている。
先生が来るまでの少しの時間、オレはちらっと斜め右にいる槇村先輩に目をやった。

「ふふ。馨ちゃん、毎日楽しそうね」
「そうかな?あっ、そういえば沙織さ、・・・」

こんな会話が聞こえてきた。
槇村先輩の隣にいるのは、確か留学してたせいで3年生よりも年上だっていう長谷川先輩っす。
最初の会議の時から一緒にいた気が・・・。二人は楽しげに盛り上がってます。
たしかにあの槇村先輩なら、すぐに友達できそうっすね。
あ、「あの」とか言ってもオレの知ってることなんて毛ほどもなく・・・。

でも、やっぱり・・・
かわいいっす・・・。

「ねえ、あの子じゃない?」
「・・・真田君の彼女ってやつ?」

後ろの席から小さな噂話が聞こえてきた。確か後ろは3年生・・・。
明らかに槇村先輩に視線を送ってるっス・・・。しかも、かなり悪意のある痛い視線。

「なによ、どこにでもいそうじゃん」
「あの程度で調子のんなっつの」

・・・!!
お、女の人はこんなに怖いもんなんすね・・・。
大西先生がやってきて、会議が始まった。
「あー、突然なんだけど、委員長と副委員長が揃って入院してな」
みんなざわついた。

「今日は代理の委員長を決めたいと思う。誰か、やってくれないか?」
これは、チャンス!
委員会内で役職に着けば、理由を付けて槇村先輩と話せるかもしれない!

「――ハイ!僕がやります!」

ビシッと手を挙げた。ボクシングのおかげでフットワークは軽いっす!
当然ながらみんなの視線が集まる。
「お、山田か・・・。1年生なのにやる気あるな。じゃ、ついでに副委員長も決めよう。
できれば山田をサポートできる上級生がいいな」

「あ、じゃあ私やります」
「!!」

ま・・・っ、槇村先輩!

「よし、じゃあ槇村、山田を手伝ってやってくれよ」
「バッチリです」
「よーし、じゃ、会議始めるぞー。ちゃんとやらないと生徒会がうるさくてなー」
大西先生のけだるそうな声とか
周りのざわざわした会話とか
一切耳に入らなかったっす。

そしていつの間にか委員会は終わり・・・。
気づいたら、誰もいない図書室のテーブルに、オレと長谷川先輩と槇村先輩の3人で座っていた。
委員長は残っていろいろ書くものがあるらしい。

「えと、山田くんだよね」
そしてなぜかオレは槇村先輩の隣に座っている・・・!
「は、はい!」
「私、2年生の槇村です。よろしくね!」
「よっ・・・よろしくお願いします!!!!」
「ごめんね沙織!つき合わせちゃって」
「いいのよ、私にできることがあれば言ってちょうだい?」

やばい、自分の心臓の音が規格外な気がするっす。
槇村先輩は書類を手に取りながら、オレに話しかけてきた。

「ね、山田くんてもしかして、ボクシング部?」
「あ、はい!でも、どうして・・・」
「おでこの大きい絆創膏。ボクサーって感じだよ」
槇村先輩は楽しそうに、目を細めて笑った。
こうやって近くで、改めて笑顔を見ることは初めてで
なんていうか、いっぱいいっぱいになった。

「真田先輩とおんなじ場所だしね、その傷」
「・・・!」

こういう展開になることの、覚悟はおおよそしていたつもりだった。
けどやっぱり直面すると、きついっす・・・。

「・・・、主将をご存じで・・・」
「え?うん、同じ寮だしね。ほら、仕事終わらせちゃおう」
3人で話しながら、仕事を終わらせた。その時間は、あっという間だった。
そして、下校時間・・・。

「お二人とも、ありがとうございました!助かりました」
図書室の戸締りをして、玄関で別れることにした。
深々と一礼すると、長谷川先輩がびっくりしたように目を丸めた。
「ふふ、律儀ね」
「いえ、礼儀っす!」
「じゃあ、また来週の委員会でね」
「はい!」

本当は名残惜しかったが、すぐに背中を向けて駆け出そうとした。
すると槇村先輩は思い出したようにオレを呼び止めた。
「あ、山田くん!・・・部活、がんばってね。
真田先輩がさ、今年の1年生は期待できるって、珍しくほめてたから!」

その時オレは思ったっす。
ああ、やっぱり真田先輩は強い、と。
槇村先輩の頭の中を、あんな風に自分でいっぱいにさせるなんて。