輝ける星 06


戦いが進むにつれて、体に残る小さな傷も、増えていった。
切り傷。擦り傷。あざ。やけど。その他いろいろ。
でも私にとってそれは、勝利の勲章でもなんでもなかった。

傷は弱いからつくんだ。
だからもっと強くならなきゃ。
不思議なことに、そう思えば思うほど、傷はさらに増えていった。
なんでだろ。

この頃から、真田先輩はよそよそしくなった気がした。
やっと、仲良くなれたと思ったのは私だけだったのかな。
まあ、そういうのは慣れてる。転校ばっかりで、絆はすぐに切れて、あきらめていたから。
そのたびにあたらしく作り直してきた。それを繰り返してきた。だから、「絆」はつくりなおせるものだと理解していた。
けど、真田先輩との絆は、それひとつしかない。要は、さみしかった。

それはほんとうに久々だった。
久々の、真田先輩と過ごす放課後だった。
あからさまにさけられているわけではないのはわかっていたけど、やっぱり気まずそうだな、っていうのは感じた。
順平と来るはがくれと、真田先輩と来るはがくれは全然違う。
昨日も順平と来たばっかりだけど、私にとっては同じ店に思えなかった。

「槇村・・・おまえ、無理してないか?」

箸の持ち方が相変わらずきれいなことも、無駄に姿勢がいいことも、いつもと変わらなかった。
けどその表情は、初めて見るものだった。
ううん、違う。初めてじゃない。
気になっていた、時々見せるさみしそうな顔。それと同じだった。

確かに怪我は増えたけど、それは先輩だって、みんなだって一緒だ。
だから答えた。「大丈夫です」と。

けれど、私の答えは必要ではなかったらしく、先輩はそのまま続けた。
「おまえの戦い方を見ていると、な・・・どうにも・・・腹が立つというか」

途切れ途切れに、言葉を濁してゆっくりと言った。
何が言いたいのか、よくわからなかった。
空気を読むことは得意で、相手が何を自分に求めているかはだいたいわかるはずなんだけど。
先輩の言動は、読めない。

だから素直に聞くしかない。
「どうしたらいいんでしょう?」

またしても、私の言葉は届いていなかったようで。
それだけいっぱいっぱいということなのかもしれない。

「腹が立つんじゃなくて、イライラする。
・・・いや違うな。ハラハラする・・・だ」

さっきからあいまいな表現が多い。
少なくとも褒められてはいない。
だったらキッパリ言ってくれればいいのに。
「おまえは弱すぎる。もっとしっかりしろ」って。
その方がわかりやすいし、説得力がある。
むしろ私の知ってる先輩は、平気でそういうことを言う人だ。
なのになんだろう、この弱気な感じは・・・。

――相手が私だから?
ふとそんなことを思った。
じゃあ、先輩にとって私はどんな存在なんだろう?

「おまえが・・・・戦わないわけには、いかないのか?」

予想もしなかった言葉だった。

少なからず、ショックだった。
怒られるよりも、ショックだった。

私は顔に出やすいタイプなのかもしれない。
先輩は慌てて撤回した。

「すまん、忘れてくれ。誰より頑張ってるおまえに、言っていいことじゃなかったな・・・」

それは、どういう意味にとったらいいんだろう。
先輩は背中を丸めて、頭を抱えた。
「わかってんだ、要は・・・」
いつもより頼りない瞳は、私を見つめた。
「要は、心配・・・なんだよ」

心配。
私が心配?

ふと、手を取られて長袖の裾をめくられた。
・・・ばれてたみたい。

「こんな風に、怪我ばかりして」
「・・・」
「笑顔も、少なくなった」

先輩には、そう見えていたらしい。
いつもと変わらないようにしていたつもりなのに。
確かにこのころ、少し疲れていたし、悩むことも多かった。
なんで、わかるの?
よそよそしかったのは、そのせい?
無茶する私を見ていられなかったから?

お互い言いたいことはたくさんあったと思う。
けれどその日は、ほとんど会話のないまま、寮に帰った。