山田の恋愛


正々堂々、勝負しましょう!



「・・・さ、真田主将!聞きたいことがあるッス!」
「山田。なんだ、改まって」

どうも、ボクシング部1年山田陽介ッス!
中学からボクシングやってて、月高には真田さんにあこがれて入ったッス・・・。
ま、まあ1年しか一緒にいられませんが、今はとても充実した毎日を送ってるッス。

「そうだ。おまえ、目は平気か?」
「!、ハイ、完治しました!」
「よかった」

く〜っ
真田先輩、優しいっす・・・!!
星の数ほどいる部員(これは言い過ぎっす)の中の一人にすぎないオレの、
怪我ともいえないようなかすり傷(試合で瞼が切れました)を気に留めてくれてたなんて
感激っす・・・。
あ、ちなみに今は休憩中の更衣室で二人きりです。先輩はTシャツを替えに来たらしいです。
毎回思うんですが、練習中、先輩の汗の量が半端じゃないっす。
雑巾絞りも楽勝なくらいのシャツ濡れ具合・・・。だから休憩の度にこうして着替えに来てるみたいですが。
それはきっと誰よりも頑張ってる証拠っす。
ますますかっこいいっす・・・!!あ、あと代謝がいいからあんなに体が引き締まってるんっすね。

「あー、その、ここじゃアレなんで、帰りワックに誘ってもいいですか?」
「構わないが」
「どうもッス!じゃ、自分練習もどります!」

一礼して更衣室を後にしました・・・。き、緊張した!正直、先輩に話しかけるのは相当な勇気が必要っす。
いや別に近寄りがたいとかそういうのではなく・・・。ほんとはもっと仲良くなりたい・・・んですが。

・・・

普段は友達とのダベリ場であるワックに、今日は部活帰りの真田先輩と来てるッス。
「・・・せ、先輩、結構食べるんっすね」
「?ああ、これくらい普通だろ。で、俺になにを聞きたいんだ?」
い、いきなり本題に入られました・・・。
まあたしかに先輩は無駄話をぐだぐだするような人には見えないっす・・・。
オレはコーラのカップを握りしめて、(中身飛び出ないくらいの力加減っす)
勇気を振り絞って口を開いた。

「ずばりなんですが」
「ああ」
「オレ、2年の槇村先輩が好きなんです」
「!?(ぶふっ)」
「せ、先輩?!ど、どうしたんすか!!」
「・・・・・ッ、むせただけだ!」

先輩は青白い顔で咳き込んでいる。
「確か、真田先輩は槇村先輩と同じ寮っすよね」
「・・・・ああ」
「それで、相談できるの先輩しかいないと思って・・・
オレ、槇村先輩とはほとんど喋ったことないんすけど、
委員会が一緒で・・・。いろいろ助けてもらったんす。それで・・・。
先輩を頼るなんて、男としてめちゃくちゃ情けない話なんすけど、オレマジ本気なんですよ!」

・・・・・

山田は「本気の」目で俺に訴えてきた。
・・・たしかに本気のようだ。本気だからこそ、本人に直接聞くなんて真似ができないのだろう。
俺は今久しぶりに困惑している。
ボクシングの試合でもタルタロスの戦闘でも、「いつもどおり」を心がけている。
「結果」なんていうのは、日々の「過程」でほぼ決まるもんだ。

しかし
今のこの状況は、そんなこと言っていられない。たしかに、馨・・・俺の彼女は人気者だ。
”馨も望まない男の影”がないかどうか心配であったが、その不安がこんなに直接的に降りかかるとは・・・。
恋愛は何が起こるかわからない。それを身を持って味わうことになった。

「ああ・・・おまえが本気なのは、わかった」
「!ありがとうございます」
「で・・・具体的には何が聞きたいんだ」
「・・・彼氏とか・・・いるんでしょうか」

そ・・・
それは一番、一番困る質問だぞ山田!
その「彼氏」はおまえの目の前にいるんだ!

「・・・」
「・・・ど、どうなんでしょうか」
「いる」
「・・・・・!!!!」

嘘はつけなかった。
もともと俺は嘘が嫌いだし、まだ卒業まで何か月もある。
俺達の仲は秘密のつもりだが、いつばれるかなんてわからない。
やっぱりどんな状況でも正々堂々いくべきだな。負け戦をするつもりはない。

「・・・わかりました」
「・・・」
「あ、誰か、なんて聞きません。オレかっこ悪すぎますから・・・」
「・・・俺だ」
「え」
「俺は槇村と付き合ってる」

・・・・

ああ
神様・・・。
これは運命のいたずらってやつなんでしょうか・・・。
ていうか漫画みたいっす・・・。
オレが思いを寄せる女性と、オレが最も尊敬する先輩が
すでに恋仲だなんて・・・。

「・・・聞きたいことはそれだけか?山田」
「・・・ハイ。充分です」
「・・・そうか」

オレのボクシング一筋の高校生活が、ほのかに色づいてきたと思っていたんだけど・・・。
玉砕っす・・・。

重たすぎる空気のまま、今日はそのまま別れました。
「先輩。今日はつきあってくれてどうもでした」
「ああ」
「また明日からも、ご指導お願いするっす」
「ああ」

帰り道を歩きながら、思ったッス。
――正直あの真田先輩には、ボクシングでも恋でも勝てそうにない。
でも決めたッス。この思いだけは彼女に伝えます!

負けを覚悟の戦、真田先輩はたぶん嫌いっす。
でもオレにはオレのやり方があります。
自分で行動して、自分の目で確認して
あきらめるのはそれからでも遅くはないはずっす!

――まずは、あしたの委員会。
自分から、話しかけてみよう。
先輩、オレ、大人の階段のぼらせていただきます・・・!