ティラミスにメイプルシロップを
そうやって照れる顔が、たまらなく新鮮だと思う。
不器用だけど気持ちにまっすぐな人が恋するとどうなるか、という結果がまさにこれ。
こっちが恥ずかしくなるくらい照れ方が新鮮。それは今日も変わらない。
金曜日、実習室の前。彼が「恋人」になってから、初めてここで会った。
「用、がないなら、俺んとこ来るか・・・?」
はい、と言えばさらに顔が赤くなる。
「じゃ、じゃあ行くか」
これくらいうぶな人なのに、ここぞというときはどうしてこんなに大胆になるのか。
それも、「不器用だけど気持ちがまっすぐな人が恋するとどうなるか」の結果だと思う。
しんと静まり返った彼の部屋で、続く沈黙。なにをしていいのやら。
「・・・、その、静かだな・・・」
「・・・」
「な、何か言えって・・・」
先輩は気まずそうに、困ったようにそう言った。
珍しくしどろもどろだ。そういうの見てるだけで、私は十分幸せなんだけどなあ。
とりあえず、こう言うことにした。
A:「そう言われても・・・」
B:「明彦・・・とか?」
C:「先輩こそ、何か話してください」
「そう言われても・・・」
気の利かない返事だ。
変に緊張している先輩のせいで、私も緊張してきてしまった。再び訪れる沈黙。
いたたまれない空気。それを一瞬で変えられるのが、彼のすごいところだと思う。
「・・・、だ、黙るなったら」
「・・・」
だから、そう言われても。再び同じことを言おうと顔を上げたときだった。
切なそうに細められた瞳に、思わず鼓動が高鳴る。あれ、こんなに近くにいたっけ?
「でないと、確かめたくなるだろ」
先輩は腕を伸ばして私の手に触れた。そっと、指先だけを。
「おまえがそこに、ちゃんといるのか・・・」
いつもより少しだけ低い声は、私の思考を奪っていた。一気に体が熱くなるのがわかる。まだ何もしてないのに。
あからさまな私の反応に、先輩はからかうようにこう続けた。
「ほら、なにか言えって」
ずるい。ずるいこの人。さっきまでの余裕のなさはどこに行った?
ふと、指先だけを触れていた手に力が込められる。
「それとも・・・確かめてほしいか?」
その質問に対する答えがイエスであれノーであれ、結果は同じ。真田先輩はそういう人だと、今日知った。
握った手をそのまま強く引かれて、文字通り彼の胸に飛び込む形になった。
衝撃で少し体勢が崩れる。先輩はそんなことは気にせずに、私を強く抱きしめた。
ぎゅうう、という衣擦れの音と甘い匂い。耳元に熱い吐息を感じて、つい体が震えてしまった。・・・恥ずかしい。
「よかった、ちゃんといたな」
俺の手の届くところにいろよ。いっぱいいっぱいの頭の中に、先輩のやさしい声が響いた。
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「明彦・・・とか?」
普段はなかなか名前で呼べない。だからこういうときくらい、いいじゃない。
そう思って疑問形で口にした名前は、やっぱり新鮮でぎこちなかった。
途端に恥ずかしくなって顔を伏せる。
「ばか、おまえ・・・」
そんな風にあからさまに照れないでほしい。
やめておけばよかった。そんな一瞬の後悔は、すぐにときめきに変わる。
先輩は小さく息をつくと、あきらめたようにこう言った。
「さっきのは、取り消す。何も言わなくていい・・・」
大きな手がするりと頬に添えられる。珍しく手袋のないその手は、なんだか甘いにおいがした。
「黙って、目を閉じてろ」
視線を絡め取られる。小さく頷いたが、目を閉じるのがもったいない気がした。
それに構わず、そっと唇を重ねられる。まだ数えるほどしかしたことのない先輩とのキス。
いつも思う。なんでこんなに気持ちいいんだろうって。
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「先輩こそ、何か話してください」
ふと抱きしめられた。ほら、こうなる。いきなり形勢逆転。
「話せと言われても、落ち着かない」
長い腕はしっかり私を支えている。あったかい。
たくましい胸に耳を寄せると、そこから聞こえてくるのは強い鼓動。
「・・・先輩」
「な、なんだ・・・」
「すごいドキドキ言ってますよ」
「・・・お、おまえな・・・」
はあ、とつかれた小さな溜息。体を離されて、顎を持ち上げられた。
女性経験がないのにどうしてこういう仕草は手馴れてるのか。不思議だった。
それにいちいちドキドキしてしまうのは、惚れた弱みだろう。
「そういうことは言うな」
「だって」
「・・・黙らせてやる」
ふと顔の距離が縮んだ。こういう絶妙な間合いを、どこで覚えてくるんだろうこの人は。
私は小さく笑ってこう言った。
「お願いします。私を無口にできるの、先輩だけですから」
「・・・確信犯だろ」
「どっちがですか?」
答えの代わりに、やさしくて甘いキスがかえってきた。
ティラミスにメイプルシロップをかけてハチミツを足したくらい、甘いキスが。
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2011/10/23(11/23加筆修正)
恋人だとコミュMAX後でも一緒に過ごせるんですね。それがこれです。コンセントレイトのメギドラオンでした。
ゲーム中の3つの選択肢すべてに萌えたので、加筆しました。どうしたらあんな甘ったるいセリフがぽんぽん出てくるんだろう、真田先輩。