こういう方が、おもしろい。
めんどくせぇことは否めないが。








青春生き残りゲーム 3








オレのクラスは1年B組だった。
医学科志望のオレも、1年生では全員が同じことをする。
プラス放課後の医大教授の特別講習って感じだ。


1クラスは40人。
もちろん全員男だ。
はぁ〜。むさい・・・。


いろんなやつがいる。
小さな島国から留学してきた、自称忍者のハゲ、ハンゾー。
どう見ても高校生には見えない童顔のゴン。
授業初日から「うんこ帽子」とののしられ、いじられキャラとなったポックル。

皆それぞれオレのように夢があるのかどうかはわからない。
ただこの学校は医学科以外にもいろんな専門科がある。



そしてアイツも同じクラスだった。
ルームメイトのアイツだ。

がやがやうるさい教室の中で、いつも静かに本を読んでいた。
オレは一番後ろの席で、それをぼーっと眺めていた。
ピンと張った背筋。意味もなく、すげーなあ。



昼休みのことだった。
「うっ・・・・うわぁーーー!!!」

廊下から聞こえた男の悲鳴。
なんだなんだと廊下に野次馬ができる。
オレもつられて廊下に出る。


「オ・・・・オレのズボンがああ!!」
「気を付けようね★人にぶつかったら謝らなくちゃ◆」

2メートルほどの間合いをもって、明らかに目立つやつが立っていた。
まず固められた髪は青い。
それだけで目立つ。
さらに、両頬にピエロのようなペイントが施してある。
何よりも、目つきがあやしい。
その向こうには、制服のズボンを切り刻まれてパンツ一丁で立ちすくむ生徒がいた。


「おい・・・あれ、ヒソカだぜ」
「ヒソカ?」
隣にいたやつがオレに耳打ちをする。
「ああ・・・同中だったんだが、地元じゃ有名な変態ヤローだ。やつは危険すぎる。
トランプで服を切り刻むのが得意技だ」

確かにヒソカは片手にトランプを一枚はさんで持っていた。
まさかあれでズボンを切ったってのかよ。


「うーん・・・キミ、そのパンツ趣味悪いね。コレあげる。僕のおススメ★」

確かに
やばそうだ。
こんなやばいヤツが、普通にいる。
噂には聞いていたが、さすが名門中の名門校。
オレが普通に思えてくる。










入学して1週間。
少しは慣れてきた。
――この部屋にも。

「ただいまー」
鍵を開けて部屋へ入る。
「おーい」
「いいぞ」
「あいよ」

ただ、こいつには
少しも慣れない。


着替えを見られたくないと言うのだ。
だからオレは、いちいち部屋に入る前に、確認しなければならない。
おーい、いいぞ、あいよ
っていう会話をしなければならない。

意味がわからなかった。
ただ、ソイツはどうしても、というので了解した。
人それぞれ事情があるのはわかるから。
大方体に大きな傷があるとか、虐待の跡があるとか
そんなんじゃないんだろうか。
そこは聞かないことにした。



お互い呼ぶときは、「おい」とか「ちょっと」とかだ。
第一部屋に帰っても、こいつはだいたい本を読んでいるか寝ているかだし。
改まって話す機会など、この1週間なかった。


案の定、今日もベッドに寝転がって本を読んでいた。
オレの方など見向きもしない。

「おいクラピカ」
オレはなにげなく言ってみた。
「クラピカ」は名前を呼ばれて目線をオレの方へやった。

「いやー、そろそろルームメイトとして仲良くやろうぜ」
「君は確かレオリオだったな」
「おう。よろしく頼むぜ」

クラピカはにこりともせず本に目を戻した。

・・・ノリ悪い。


まあ、いいか。オレだって別に居心地が悪いわけじゃないし。
静かに過ごすか。





翌日。

「なに、シャワーが壊れた?」
「そーなんだよ。明日にならないと修理できないってさ」


この寮は新築なはずなのに、ものの1週間で壊れた。
夕食後に風呂に向かおうとしたクラピカは、それを聞くといつも以上に眉間にしわをよせてため息をついた。
まるでオレのせいみたいだ。

するとクラピカは「お風呂セット」を持ったままケータイを取り出し、電話をかけ始めた。
「もしもし、私だ。ああ、実はかくかくしかじかでな。――すまない。よろしく頼む」

「なんだよ誰だ?」
「ゴンだ」
「ゴン・・・って、ああ、あいつか」

ゴンはとにかく落ち着きがなかった。
学校にいる間は常にあいつの声を聞いていた気がする。

「いつの間に電話する仲になってたんだ」
「君には関係なかろう。私は今からゴンの部屋に行ってくる」
「なっ」
「妙な反応をするな!!シャワーを借りるんだ!!」
「あっ、そう」
「君はシャワーを借りる友達もいないだろうからな、さっさと寝るがいい」
「へーへー、いってらっしゃい」

こいつの口の悪さにはもう慣れてしまった。
こいつはこういうやつなのだ。
こういう根元からひねくれた性格っていうのは直らないもんだ。


クラピカは軽やかに踵を翻して部屋を出て行った。
オレもシャワー浴びてぇなあ。
そーだ、クラピカが帰ってきたら、オレもゴンの部屋にいこう。
友達の友達は、オレの友達でもあるってもんだ。
オレは気合を入れなおして、しばし机に向かうことにした。



しかし。
それがクラピカにとって最大の誤算になろうとは
本人はまだしもオレでさえ知らなかった。




2011/4/21
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