アイツでもああいう顔するんだなあ。










青春生き残りゲーム 6








クラピカは、ゴンの部屋から30分もしないうちに帰ってきた。
「よー、おかえり・・・て、おまえ、なんだよそのカッコは」
はあはあと息を切らしてクラピカは帰ってきた。
髪はびちょびちょだ。・・・しずくがポタポタたれるくらい。
服はちゃんと来ているが、これまたびちょびちょに濡れたバスタオルをしっかり胸に抱いている。

その顔は、思いつめたように冷静さを失っていた。
「おま、まさかとは思うがゴンに襲われたか」
「違う!」
「じゃあどうしたんだよ」

尋常じゃない。
こんな光景見れば誰だってそう思うだろう。
なにより、こいつもこんな顔をするのか。

「もう疲れた・・・寝る。ほっといてくれ」
「濡れたまま寝るのかよ」
「放っておけと言っている」
「風邪ひくぜ」


オレは新しいバスタオルを広げて、クラピカの頭を拭こうとした。
しかし。

「――さわるなっ!!」
ペシッと音を立てて、手を振り払われた。
「なんだよ人がせっかく親切にしてやってんのによ。ったく勝手にしろ」

最初から分かっていたことだったが、こいつとはどうもウマが合わないことくらい。
この時のオレは、クラピカの身に起きていた事の重大さにまるで気づくはずもなく・・・。




・・・・・




私の朝は早い。
もともと早起きは苦にならないのでさほど気にならない。
下のベッドのレオリオに気づかれないよう、彼が起きないうちに着替えを済ませる。
もともと胸は大きくないので(・・・)、サラシをしっかり巻けば胸は平らになる。
ただ、やはりきつい。毎朝この作業が苦痛だ。

私の胸の雑念は消えなかった。
不安と焦りばかりが交差する。
私が考えていたのはただ一点。

――昨夜の黒髪の男を探し出し、消す!!
見られたからには仕方がない。ヤツの口から私の正体(性別)がばれる前に、消すしかない!!

ちなみに消す=退学ということだ。
殺すわけではない。


私は目的のためなら手段を選ばない。
ここに来る前に、その覚悟は決めてきた。
まさか1か月もたたないうちに、その覚悟が試される時がくるとは・・・。







寮から教室までは徒歩5分で行ける。
ただ3年生からはこの広大な敷地の端に校舎があるので、少し遠くなる。
1年生の間は寮と校舎は目と鼻の先にある。

朝食後、ぞろぞろと生徒たちが大移動を開始する。
朝食の時間が決まっているので、自然と全員一緒に登校することになる。

だから、ルームメイトのレオリオとも意味もなく朝食の席は隣だし、意味もなく一緒に登校している。
特に話すわけでもなく。

最近はレオリオがなにやらちょっかいを出してくるのだが、今日はいつも以上にそんなことに構っている暇はなかった。
ヤツを探さなくては。


あの状況から推理される仮説はこうだ。
まず鍵を開けて入ってきたのだから、ゴンのルームメイトだろう。
そして、ルームメイトは1年生だ。
つまり同級生だ。
しかしクラスがわからない。
1学年に10もクラスがあり、しかも教室はバラバラだ。
まったく巨大すぎる学校というのも考えものだ。


1限終了後、私は早速隣のクラスから回ることにした。
何日かかるだろうか・・・。早いに越したことはない。
ヤツを放置しておくことは、私のリスクを高める!


(い・・・いた!!)
なんと奴は隣のC組にいた。まさか最初から見つかるとは・・・。
そして私は同時に思った。

ゴンに聞けばよかったのだ。
わざわざこんな真似をせずとも、だ。

我ながら情けない。
動揺しすぎて頭が回らないようだ。


しかしどうする。
どうやってヤツを退学にする?
休み時間はあと5分。私はC組のドアの影で必死に作戦を練った。


何よりもまず、甘かった。甘かったのだ、私の考えは。
あんなにもあっさりばれてしまうなんて。
本当なら今すぐにヤツに飛び掛かりたいところだ。
しかしそんなことをしたら退学になるのは私の方だ。

かといって・・・ならばどうする!?
他に何か手はあるか!?
この緊縛にも似た状況を解決する奇跡のような手が・・・!!


「・・・っ」


ない・・・っ
見つからない!




「なーにやってんだよ」
「・・・!!」

レオリオ!!
「なんだよC組に用か」
「貴様こそ何の用だ!!」
「お?何怒ってんだ、便所の帰りよ」
「お、大きな声を出すな!」
「んだよ、地声だ」


レオリオは声が大きい。しかもあの身長故存在感がある。
廊下の生徒も教室の中もレオリオの登場になんだなんだと振り返る。

ヤツも
黒髪のヤツも
こちらを見た。
そして


「・・・・・・!!」


目があった。
ヤツは静かに席を立ち、こちらに向かってきた。

ま、
まずい・・・!!

反射的にレオリオの後ろに後ずさる。

「なんだよどうした」

こっこのサルめ!!おまえのせいですべて台無しだ!!


「やあ」
ヤツは私の前で止まった。
明らかに私を見ている。レオリオを挟んで。

「昨日はどうも。そうか、そういう方法があったな」
そういう方法、とは、男装のことだ。
くっ、これまでか・・・!
私は拳に力を入れた。

「大丈夫、オレは君を拒んだりしない」
「・・・は」
「ただオレはさみしがり屋のくせに孤独が好きだ」
「・・・」
「3年あるからな、まだまだ先は長い」


ヤツは無表情のままそう言い席に戻った。同時にチャイムが鳴った。
授業開始のチャイムが。



クロロの暴走が止まらない。手が止まらない。クロロを書くのは初めてだからか。
それにしてもクラピカさん、結構抜けてます。
2011/5/6


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