恋愛対象になるのは、日常で半径数メートル以内にいるやつらしい。
てことは
オレの恋愛対象は、ルームメイトのクラピカか?
青春生き残りゲーム 8
「おい、起きろ」
「・・・おう」
オレは特別朝に弱いわけではないが、やはり毎日深夜2時近くまで机に向かっていると朝日がまぶしい。
朝食の時間20分前になると、決まってクラピカが起こしてくれるようになった。
寝ぼけ眼に飛び込んでくるのは、寝癖一つなく、ネクタイもきっちり締まった、いつも通り完璧に身支度を整えたクラピカの姿だった。
「・・・おまえさー、すごいな」
「なにがだ」
「一度くらいパジャマのまま慌てふためく姿が見たいもんだぜ」
「そんな醜態さらすものか」
クラピカはそっぽを向いて、真顔で、しかし口元を少し緩ませてそう言った。
別に起こしてくれと頼んだわけではない。
クラピカだって、「まったく毎朝毎朝、私だって忙しい」だの、「そろそろ自力で起きろ」だの文句を言う。
だが起こしてくれるのだ。
オレが遅くまで勉強しているのを知って気を遣ってくれているのかどうか。
でもたぶん、あいつは本当はやさしいやつなんだろう。
そういう気持ちを口に出さないところが、少しオレと似ている。
「今日の朝メシはなんだろなー」
「献立表くらいチェックしておけ」
そんな会話を交わしながら部屋を出て食堂へ向かう。
オレたちと同じように、部屋から生徒たちが眠そうな顔で出てくる。
寝癖が目立つやつ。ズボンのチャックが開いてるやつ。
ああ、やっぱりむなしい、男子校。
オレもクラピカも、食事は残さずに食べる。
なぜか食べ終わるタイミングが同じで、そのまま一緒に教室へ向かう。
行動を合わせているわけではない。
しかしこの行動パターンが、この1か月で浸透してきてしまった。
それは空気のように当たり前のことだった。
並んで歩き、オレが独り言のように、何かを呟く。
少しの沈黙の後、クラピカに話しかける。
するとクラピカは横からオレを見上げて、短く返事を返す。
その返事はたいていオレの癇に障るものだから、だいたい口げんかが始まる。
ひとしきり口論をしたあと、また同じようなことを繰り返す。
その合間に授業があって、放課後の講義があって、夕飯があって・・・。
まるで何年も前から一緒にいる兄弟のような
そんな感覚だった。
5月も半ばのある日、クラピカは3日間の研修旅行に出かけた。
アイツの専攻分野は難しくてオレにはよくわからない。
朝起きると、もう1限は始まっていた。
なんで今日に限ってクラピカのヤツ、起こしてくんねーんだ!
と、一人で教室に向かう途中、ふと思った。
そういやいつものように隣にはいない。
その時初めてクラピカが研修旅行中だということを思い出した。
「あ、今日からだっけ?クラピカいないの」
「おう」
教室に入ると、ゴンが思い出したようにオレに駆け寄る。
「なーんか変な感じだね」
「なにがだよ」
「レオリオとクラピカ、いつも一緒だったから」
周りがそう意識するほど、常に一緒にいた覚えなどない。
ゴンのその言葉を聞いて、少し考え込んでしまった。
クラピカのいない3日間は恐ろしく静かだった。
もともとあいつは口数が少ないが、話し相手がいないことは大きかった。
この漠然とした気持ちは、「さみしい」んだと分かったのは、クラピカが帰ってきてからだった。
「私がいない間、遅刻は免れなかっただろう」
「うるせー」
「やはりな」
3日ぶりの会話もこんなんだった。
けど懐かしかった。
「そうだ、これをやる」
「なんだこりゃ」
クラピカが鞄の中から取り出したのは、紙袋。
見慣れない言語が印刷されている。
「万年筆だ。たまたま見つけたからお土産だ」
たぶんクラピカにとっては、ルームメイトへのささやかな気持ちだったのだろう。
これからもよろしく、の意味を込めて。
それは全く自然だ。時の流れのように自然だ。
「おまえは努力家だからな」
そう言って、ラッピングもなにもされていない小さな土産袋をオレに差し出すクラピカの
――たぶん、初めて見る笑顔は
どうしても頭から離れなかった。
その日から、オレの葛藤が始まった。
オレは
オレは・・・・
こともあろうか、この国のスケベ代表にもなり得るだろうこのオレが
もしかしたら、男を好きになっちまったんじゃないだろうか。
レオリオさん、お気の毒です(笑)
2011/5/18
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